GAPのオンライン授業への挑戦
―新型コロナウイルス禍における対応・取り組み―

 開設から5年目を迎えたGAPは、留学生が約半数を占める専攻である。地理的にも文化的にも多様な背景を持った人々の集合体として、グローバル社会におけるアートとアーティストのあり方を考えながら、国際連携パートナーとともに常に新たな大学院カリキュラムの可能性を試行・展開し、挑戦してきた。特に、国内外の多彩なアーティストや研究者を講師として迎え、GAP教員との協働で行なわれる数々のプログラムは、短期集中型の新たな体験が次々に押し寄せる密度の濃いもので、人間と人間のぶつかり合いから生まれる新たな世界観が学生や教員に大きな刺激を提供し続けてきた。
 今回の新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、海外渡航はしばらくのあいだ不可能という事態になり、のみならず藝大の大学校地への入構も基本的に禁止となり、すべてのリアルな対面授業ができなくなった。多様な出会いを特徴とするGAPにとって、これは激震と言える。しかし、このパンデミックへの対応を好機と捉え、GAPは新たなオンラインによる授業の可能性を追求する機会へと、積極的に意識を転換することとした。
 オンライン授業ではあるが、人間と人間の出会いを重視するGAPの姿勢は保持し、オンデマンドではなく、「オンラインによる対面授業」を基本に据えた。また、授業へのフィードバックを得る意味も込めて、課題提出を適切に組み合わせ、手応えを確かめながら授業方法と内容を適宜アップデートする方法を取った。オンライン授業をリアルな対面授業の代替とするのではなく、オンラインであるからこそ成立する何かを探し、挑戦することを厭わずに、教員とスタッフが協力して実行し続けた4ヶ月は、あっという間だったというのが今の実感である。
 GAPはこれまでインスタグラムを授業に取り入れるなど、ごく初歩的なオンラインの導入は行なってはいたものの、ZoomやGoogle Classroomを中心に据えたプログラムにまでは踏み込んでいなかった。手探り状態で始まった挑戦ではあったが、7月現在、「グローバルアート共同プロジェクト」、「社会実践論」、実技指導を含むすべての授業がオンラインで実施されており、一部再開されたリアルな対面授業と組み合わせて、それぞれに新たな発見と手応えと将来への可能性を感じている。
 まだまだ新型コロナウイルスは収束の気配を見せない状況ではあるが、今後の大学教育はオンラインとリアルな対面の組み合わせで行なわれるであろう。そこには不自由だけではなく、これまでにない可能性も開けている。今回の私たちの2020年度前期の取り組みは、その始まりに過ぎないが、この取り組みを、G A Pで学ぼうと興味を持つ将来の学生やオンライン授業に日々取り組んでいる大学教員ともシェアしたいと思う。皆でさらに協働してこの状況を乗り切り、新たな地平が見えてくることを願って。

 
 2020年7月末日 GAP専攻
 
 
Art as Experiment 2020: Body in the kitchen

 
◆2020年度 前期に実施した主なオンライン授業
各授業の詳細については、「カリキュラムについて」より各授業のページをご覧ください。

 
 

3月
・中旬から教員の会議を全面的にオンラインに移行。学生ともオンラインによる対応を開始し、新M1を含め、留学生を中心に、来日状況、ビザ取得、生活や健康状況などの確認を進める。

 
 

4月 
新M1ガイダンス(4月7日):わりと一方的な画面越しの説明となる
学事暦上の前期授業開始(5月11日)を待たずに、新M1学生とのオンラインによる対面をスタートさせる。
Show Case:スライドショーを画面シェアと組み合わせる利便性を発見
ZoomでM1の自己紹介を実施。スライドショーを画面で共有することで、集中力が上がり見やすいものがあることを発見。また出身地を地図で示すことでリアルな共有につながることなどを学生同士が発見し、オンラインでのコミュニケーションスキルが上がっていく。このときはレコーディングをしなかったが、Wi-Fi環境の不安定さから接続中断が発生する学生が出ることを認識。そのため、以降の授業は基本的に全てレコーディングをし、後からも視聴・共有できるようにした。
プラザ:自由なおしゃべり場を設ける
学生の孤独感の緩和を目的とし、カフェのような空間をオンライン上に設置。教員と助手が待っていて、話したい学生が自由に来られる場とした。感じている不都合や不安へのサポートなど。このプラザは、以降の授業の充実とオンライン生活への慣れに伴い不要になっていき自然に回数が減った。
→授業の減る8月頃に「What’s up! Salon」などとして復活しようかという声が挙がっている。
オンラインによるコース・ミーティングの開始
毎月1回を基本にオンラインによる学年ごとのコース・ミーティングを設定。登校して行なっていたときには出席率は半分程度だったこともあったが、オンラインにしたところ、ほぼ全員が毎回出席。オンライン授業への対応相談、不安・不満の相談、未定・変更の多かった授業スケジュールの確認などを丁寧に行なった。特にM2 Online展についてのディスカッションはかなり白熱し、回数も含めて機動的に実施することができたのは、オンラインならではだった。

 
 

5月
オンデマンドではなく、オンラインによる「対面」授業
一方的に情報を流すオンデマンドではなく、あくまでもオンラインによる「対面」を基本に、課題と組み合わせながら各授業を進めていくこととした。学生の全体数が比較的少なく、「対面」が可能であったことも幸いした。孤立しやすい留学生がほぼ半数を占めることからも、授業前後に学生との挨拶やおしゃべりをしながら、健康や生活不安などもキャッチするよう努めた。
アートコミュニケーションのプレセッション:M1への英語苦手意識への対応
正式な授業開始時期が後ろ倒しになったことで生まれた空白期間に、プレセッションとして英語の集中講義をオンラインで実施。英語表現の苦手意識の軽減と、全体授業への助走となる。
M2 Online 展:オンラインでは言語化の必要性が明確になる
4月末に取手で予定されていたM2の進級展をオンラインで実施。オンライン上に、プレゼンテーションへの入り口として「展示室」的空間を用意し、Studio visitをオンラインで行なうような形式で各学生のプレゼンテーション、講評会を行なった。オンラインでは言語化の必要性が明確になり、自作を言語化する訓練ともなった。オンラインを使わざるを得ない状況下で、柔軟性や発想・思考の幅の広がりも生まれたが、同時にフィジカル(リアル)な展覧会への希求力も高まった。第一次感染拡大への恐怖が大きかった時期で、日々の目に見えない恐怖が作品に大きく作用していたものが見られた。
日本アート概論:外部講師も含めた「多」対「多」、「見ること」の意義を再確認
東京都現代美術館の学芸員を講師に招き、GAP担当教員と協働授業を展開。例年はM1の授業だが、オンラインでの実施により物理的制限がなくなり、M2も参加可能となった。また、オンライン実施によって時期も5月から7月までと長く設定でき、7月には実際にMuseum visitとの組み合わせも実現。その期間に次々に開始された他の授業とも相互に響き合うことになり、外出自粛で叶わなかった身体的な「見る」体験、「見ること」の意味を多角的に考える契機となった。
ユニットプログラムのプレセッション:オンラインで海外講師の授業がスタート
ユニットプログラム前に、GAPでのプレセッションが始まる。6月初めにはNY からエキソニモを講師に招いての授業など、オンラインならではの海外講師の招聘が実現していく。

 
 
 
社会実践論:海外講師による授業とワークショップ
 

6月
社会実践論:海外講師による授業とワークショップ
香港からの講師によるオンライン授業。オンラインゆえにスケジュールの可変性がうまく作用し、リサーチへの対応の柔軟さが可能となったり、メンタリングのスケジュールを無理なく組めるなどの利点も見られた。
GAP演習(1-a):実物を伴う実技指導のオンライン試行
実習キットを学生に郵送配布し、制作後、郵送で回収。校内でスタッフが展示し、ライブビューイングで講評を行なう。その後7月に登校・実見した。自作を説明する力と工夫への気づき、展示作業を誰かに任せなければいけない場合のスキルの発見など、制作そのものだけではない細かな部分への気づきの共有もあった。
GAP演習(1-b):遠隔地とのシンクロや同時性を体験
iPhoneを書画カメラとして利用し、ドローイングをオンラインで共有するなどライブ感を持った授業が展開される。
ユニットプログラム:言語ではない身体的表現も共有できるという新たな発見
オンラインだからこそパリ、ロンドン、東京と三校同時開催が初めて実現。Zoomならではの多画面による協働パフォーマンスの成立を体験し、新鮮な驚きがあった。



◆2020年度 前期オンライン授業を経て
 GAPのオンライン授業への挑戦は、まず第一に学生を孤立から守るためにはどうすればよいか? という出発点から始まりました。留学生が半数近い専攻の特性もあり、慣れない日本で暮らす学生が少なくないからです。教員・スタッフで日々ミーティングが繰り返された結果、コミュニケーションが以前に増して充分に取られ、気づくとGAPの教員・スタッフのチーム力も向上していました。オンライン授業で得られた発見や成果は、そうしたチーム力無くしては成立していません。
 在学生や受験を考えている方で不安や心配などがある場合は、お気軽にGAPスタッフにお問い合わせください。
 GAPは、これからもチーム力で取り組んでいきます。